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【共同開催セミナー報告書】「移住労働者の手数料問題の解決に向けて」


 2025年5月に、ビジネスと人権ロイヤーズネットワーク(BHR Lawyers)、外国人労働者弁護団、外国人技能実習生問題弁護士連絡会、グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン (GCNJ)は、株式会社クレアンの協力で「育成就労法施行後の移住労働者の人権を考える~ビジネスと人権の視点から~」を共同開催しました。

 このセミナーで特に重要な課題として議論されたのが、移住労働者の人権問題技能実習生を含む移住労働者(外国人労働者)が送出機関や仲介者に多額の手数料を支払い、多額の借金を背負って来日しているという「手数料問題」です。  

 この度、上記4団体が2025年5月に共同開催したセミナーにおける議論をふまえて、セミナー報告者を中心に有志の意見を取りまとめた「育成就労法施行とビジネスと人権行動計画改訂における重要課題 移住労働者の手数料問題の解決に向けて」と題するセミナー報告書を発表しました。是非多くの皆様においてご査収、ご参照いただければ幸いです。



 セミナー報告書における意見の概要は以下の通りです(有志の意見をとりまとめたものであり、組織全体の意見を示すものではありません)。


<セミナーをふまえた意見の概要>

 手数料問題は、深刻な人権侵害を生じさせ、人権救済を阻害する要因となっている。加えて、グローバルなサプライチェーンにおいて「ビジネスと人権」の取組が求められる中で、手数料問題は、日本企業の国際競争力を低下させ、日本社会の国際的な評判を貶める結果にもなりかねない。

 特に、育成就労法省令案[1]は、現地送出機関が育成就労外国人労働者から来日後の月給の2か月分まで手数料を徴収することを許容することを提案しており、このことは、日本社会が手数料問題を容認しているかのような誤ったメッセージを発信する恐れがある。日本も批准しているILO181号民間職業仲介事業所条約では、民間職業仲介事業所は、労働者からいかなる手数料または経費を直接または間接に徴収してはならないことが明記されており、上記省令案は、このような国際人権・労働基準にも明確に抵触している。

日本が移住労働者から「選ばれる国」となり、日本企業の人的資本と国際競争力を高めつつ、真の意味で移住労働者の人権を尊重し、また移住労働者との共生社会を実現するために、日本政府および日本企業には、以下の施策及び取組を推進すべきである。


1 日本企業に求められる取組

 移住労働者を直接雇用している企業に加え、サプライチェーン上で移住労働者を雇用している企業においても、移住労働者の手数料問題が重大な人権侵害リスクを生じさせる課題であることを認識し、そのリスクを評価・対処する人権デュー・ディリジェンス(人権DD)を強化すべきである。また、このような問題に関して当事者である移住労働者、またその支援をする労働組合等の声を聴き、救済・是正するためのグリーバンスメカニズムを強化すべきである[2]

 特に、企業は、監理団体・監理支援機関等を通じて、労働者から徴収されている、またはその可能性がある手数料(現地送出機関やブローカーが徴収しているものを含む)の開示を求め、手数料の透明化を進めることが重要である。このような手数料の透明化は、仲介業者等による搾取・腐敗を防止し、手数料全体の金額削減につながる。

このように手数料の実態を把握した上で、企業は、労働者から徴収する手数料をゼロにし、移住労働者を受け入れる際に要する費用は企業側で負担することを確保できるように取組を進めるべきである。この際、移住労働者を受け入れる企業には中小企業や地域企業も多いため、サプライチェーン全体で企業が負担する手数料の分担について協議することが求められ、それは移住労働者の労働によって利益を享受する大企業も含めた「責任ある雇用」の実践である[3]


2 日本政府に求められる施策①-育成就労法の施行・改正[4]に向けて

 送出機関が来日後の月給の2か月分まで育成就労法労働者から手数料を徴収することを許容する省令案は、日本社会は手数料問題を容認しているかのような誤ったメッセージを発信する恐れがあるため、同案は撤回すべきである。

 むしろ、日本政府は、国際人権・労働基準を実施する観点から、移住労働者からの手数料徴収をゼロとすることを目指した方針や計画を策定し、責任ある事業活動を積極的に推進・支援すべきである。特に現地送出機関やブローカーによる手数料徴収を防止するためには、日本政府が現地送出国の政府に対する働きかけと共同の取り組みをさらに強化することが不可欠である。


3 日本政府に求められる施策②-ビジネスと人権行動計画(NAP)改訂に向けて

 移住労働者の人権尊重は、2025年に予定されているビジネスと人権行動計画の改訂において、「誰一人取り残さない」ための施策推進の一環として、優先分野の一つとして位置付けられている。移住労働者の手数料問題は、特に深刻な人権侵害を引き起こし、人権救済を阻害する要因となる重大な人権課題である。このことをふまえると、日本政府は、国連ビジネスと人権指導原則を実施する観点から、この問題を行動計画における優先課題として位置付け、その解決に向けた施策や計画を明記すべきである。

(1)人権デュー・ディリジェンスの促進・支援と能力構築

 具体的には、政府は移住労働者の手数料問題に関して、企業の人権デュー・ディリジェンスを促進・支援すべきである。特に、移住労働者を受け入れる企業や監理団体・監理支援機関は、中小企業や地域企業も多いため、これらの企業や団体が人権デュー・ディリジェンスを実施し、手数料問題を解決するための能力構築を強化することが必要である。

(2)実効的なグリーバンスメカニズムの構築・運用

 また、移住労働者が手数料の支払のために多額の借金を負うことが常態化しており、その返済のために就職せざるを得ないという状況から声を上げにくい脆弱な立場にあることに留意し、政府および企業はそれぞれ、移住労働者が安心・信頼して相談・通報でき、人権救済を受けられるように、実効的なグリーバンスメカニズム(司法的救済・非司法的救済メカニズム双方を含む)[5]を構築し、運用すべきである。


[1] 外国人の育成就労の適正な実施及び育成就労外国人の保護に関する法律施行規則案

第1の15(送出機関に支払った費用の額の基準)「法第9条第1項第11号(法第11条第2項において準用する場合を含む。)の主務省令で定める基準は、育成就労計画に記載された報酬の月額に2を乗じて得た額を超えないこととすること。」

[3] 「ビジネスと人権に関する行動計画の3年目意見交換のためのレビューに関するステークホルダー報告書」では、例えば、次のような事例を紹介している。ある企業では、団体監理型技能実習生の受入れにあたって、実習生のゼロ・フィーを実現するために監理団体を新設し、自社の仕入れ先企業にも同監理団体を活用するよう促し、サプライチェーン全体で人権リスクの軽減に取組んでいる。また、別の企業では、来日前の教育費用を負担したり、適正な監理団体を選定したりするなど、実習生の人権に配慮した取組を実施している。JP-MIRAIのようなマルチステークホルダーによる協働も進みつつある。

[4] 外国人技能実習生問題弁護士連絡会は、2024年3月15日、「「技能実習存続法案」である育成就労法案に反対します!」と題する提言を発表し、手数料問題を含む育成就労法に関する様々な問題点を指摘している。

[5] 日本弁護士連合会は、「ビジネスと人権」に関する行動計画改定に盛り込むべき「救済へのアクセス」実現のための具体的な事項・施策に関する意見書を公表し、NAP改定における様々な救済メカニズムの改善を提言している。


 
 
 

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