新型コロナウイルス感染拡大に伴う企業活動の停滞は、企業が直接雇用する労働者に休業・失業などの影響を与えるにとどまらない。注文取消・支払遅延などの影響により、国内外のサプライチェーンにおけるサプライヤー企業やその労働者にも負の影響を生じさせている。
特にサプライチェーンの上流の中小企業・新興国の労働者は、政府や使用者である企業による保護を十分に受けられずに、深刻な生活への影響を受けるリスクがあり、実際日本国内外で影響が生じている。本章では、このような国内外での影響の状況を分析すると共に、これに対する国際機関・政府・企業・関係団体などの対応や提言内容を紹介する。
日本国内では、経済産業省が、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けている下請事業者との取引について、一層の配慮を親事業者に要請している。経団連・連合・中小企業家同友会全国協議会などの民間のステークホルダーも、サプライチェーン対応に関連した提言を行っている。本章では、このような国内での取組をふまえつつも、日本企業が、国内外のサプライヤー及びその労働者への影響を緩和し、責任ある企業行動を実践するための以下の5つの留意点・工夫を提示する。
(1)新型コロナウイルス感染拡大の影響を、自社のサプライチェーンの労働者への影響を含めて、評価し、開示する
影響評価に当たっては、OECDのDDガイダンスや政策ノートを参照することが適切である。UNDP・ILO・BSRなどが発表している簡易迅速な人権DDツールを活用することも有益である。自社のサプライヤーが所在する国・地域の政府が、どのような労働者保護措置をとっていることか確認することも重要であり、ILO・OECD・Fair Labor Associationなどが情報を集積している。
(2)移民労働者など脆弱な立場に置かれている立場のステークホルダーへの影響を特に考慮する
社会的に脆弱な立場に置かれている人々は特に新型コロナウイルス感染拡大により深刻な影響を受ける危険性が高いことから、第2章以下の記載をふまえつつ、慎重に影響を評価し対応することが重要である。
(3)サプライヤーや労働者と可能限りコミュニケーションを図りながら影響緩和のための方法を模索する
Fair Labor AssociationやFair Wear Foundationのサプライチェーンに関するガイダンスは、サプライヤーへの影響緩和のための様々な選択肢を提示しており、参考となる。経済産業省が要請している下請事業者への配慮(納期遅れの対応、適切なコスト負担、迅速・柔軟な支払いの実施、発注の取消・変更への対応)は、国内のサプライヤーとのみならず海外のサプライヤーとの関係でも実施することが有益である。
(4)サプライチェーンを通じて労働者などのステークホルダーからの問題提起・苦情に適切に対応する
影響の評価・緩和のために情報を収集すること、労働者等に救済へのアクセスを確保すること双方の観点から、企業は苦情処理メカニズムを強化することが重要であり、「対話救済ガイドライン」が参考となる。現在の危機対応時において迅速に対応するためには、「対話救済基本アクション」を参照することが有益である。
(5)投資家において、日本企業に対し、サプライチェーンを通じた対応に関して、明確なメッセージを出す
海外での機関投資家の取組を参考としつつ、日本においても、機関投資家が、企業に対し、サプライチェーンを通じた責任ある企業行動の推進を支持・賛同する、明確なメッセージを出すことが期待される。
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