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企業の人権尊重促進のための弁護士の役割とは

更新日:2020年11月24日


弁護士 高橋 大祐

2020年11月17日


(本稿は、2020年11月17日に開催された、第9回国連ビジネスと人権フォーラムのセッション “Preventing business-related human rights abuses in Asia Pacific: Actors and actions”で発表した草稿を日本語訳・編集したものです。英語版はこちら



 日本国内外での「ビジネスと人権」に関する経験をふまえ、企業の人権尊重促進のための弁護士の役割に関して、以下の3つの側面に焦点を当てて紹介したいと思います。


1. 「ビジネスと人権」に関する共通理解の下で依頼者に助言・サポートすること

 第1に、弁護士は、企業の人権侵害を予防・是正するために、依頼者である企業に助言し、また被害者をサポートすることができます。ビジネスロイヤー・人権弁護士いずれの立場であれ、私たちは、企業とその他のステークホルダーの間に存在し得る人権課題に関する認識のギャップを埋めるためにそれぞれの立場において行動をとることができます。

 「ビジネスと人権」に関する共通理解を高めることの重要性をふまえ、日本弁護士連合会(日弁連)は、2015年、日本企業・弁護士を対象として「人権デュー・ディリジェンスのためのガイダンス(手引)」を発表しました。

 2018年には、企業法務から人権擁護まで様々な分野で活動している弁護士・研究者のコレクティブアクションを通じたネットワークとして、「ビジネスと人権ロイヤーズネットワーク(BHR Lawyers)」が結成されました。これは、国連ビジネスと人権作業部会による「Global Pro-bono Lawyers Network」の設立の呼びかけに対して呼応したものでもありました。2020年には、BHR Lawyersは、国際法曹協会(International Bar Association)と協働して、日本の法律家を対象として、「ビジネスと人権研修プログラム」を開始しました。


2. 国際規範に沿って事案を調査し影響を評価すること

 第2に、弁護士は、国際規範に沿って、事案を調査し、企業活動の人権への負の影響を評価することができます。このような仕事は、企業に助言する弁護士としても、市民社会や労働者を支援する弁護士としても対応することが可能です。

 私も、企業法務を担当する弁護士として、日々の法律業務を通じて、デュー・ディリジェンスの実務に関わっています。このような業務に加えて、公益の目的のためにも、私たちは専門的な調査能力を生かすことができるかもしれません。新型コロナウイルスの世界的大流行が人権に深刻な負の影響を生じさせていることをふまえ、BHR Lawyersの弁護士有志は、「COVID-19 & BHR調査プロジェクト」を組織し、調査レポート「新型コロナウイルス感染症拡大の人権への影響と企業活動における対応上の留意点」を取りまとめました。私たちの報告書は、特に影響が懸念される6つの分野(①サプライチェーン、②移民労働者、③非正規雇用・ギグワーカー・インフォーマル労働者、④医療従事者、⑤子ども・高齢者・女性・障がい者・外国人等、⑥プライバシー)について、影響と対応を整理しています。


3. 企業とステークホルダー間の対話を促進し紛争を解決すること

 第3に、弁護士は、企業とステークホルダー間の対話を促進し、紛争を解決することができます。

 弁護士は、特に、被害者の救済へのアクセス確保に関して、その役割と責任を有しています。その観点から、2019年、BHR Lawyersは、グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン(GCNJ)と共同した取組として、日本企業が実効的な事業レベルの苦情処理メカニズムを整備するための実務指針や基本行動として「対話救済ガイドライン」を発表しました。この対話救済プロジェクトは、OECD、ILO、ビジネスと人権NAP市民社会プラットフォームからも、支援をいただいています。

 また、技能実習生などの非熟練外国人労働者が社会的に脆弱な立場に置かれていることをふまえ、BHR Lawyersは、外国人労働者弁護団及び外国人技能実習生問題弁護士連絡会という外国人労働者を支援する弁護士グループと対話協働を重ねました。その結果、2020年に「サプライチェーン外国人労働者ガイドライン」を共同で発表しました。

 さらに、弁護士は、国別行動計画(NAP:National Action Plan)の策定のような政策形成のプロセスにおいても、企業とステークホルダー間の対話を促進することに貢献できるかもしれません。2020年10月、日本政府は、最初のNAPとして「ビジネスと人権に関する行動計画」を公表しました。私は、日弁連から推薦を受けて、NAP作業部会の構成員を務めさせていただく機会をいただきました。このNAP策定プロセスにおいて、日弁連は、他のステークホルダー団体からご協力をいただきながら、定期的に会合やイベントを開催し、企業とその他のステークホルダー間の対話・意見交換のためのプラットフォームを提供させていただくことができました。ステークホルダー間の意義ある対話の結果として、企業から労働組合・市民社会まで、すべてのステークホルダー作業部会構成員一同において、異なる意見や立場を超えて、NAPに関する共通要請事項を公表することに関して一致し、政府に対してこれを提出することができました。このような取組は他国のNAP策定プロセスと比較しても独自のものであると思われます。


4. 他のステークホルダーと協働することの重要性

 私が上記のような「ビジネスと人権」に関する業務や活動を通じて特に学んだことは、弁護士は一人では活動できないことです。政府・企業・労働者・市民社会を含む様々な関係者の方々と協働することによってこそ、企業の人権尊重を促進に貢献することができるものと思われます。

 私が「ビジネスと人権」に取り組みを始めたころに、「ビジネスと人権」の日本におけるパイオニアで、大先輩の弁護士である、齊藤誠弁護士からいただいた助言が今も心に残っています。「弁護士は、単なる専門家としてのみ行動してはならない。私たちも当事者の一人として身を置き、様々なステークホルダーと対話を重ねていかなければならない。」この言葉を忘れずに、今後も、様々な関係者の皆様と協働しながら、活動を続けていければと思っています。

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